はじめに
春の訪れと共にマイル戦線の行方を占う重要な一戦、第57回ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)が、4月5日(土曜)、中山競馬場で開催された。今年もハンデ戦ならではの混戦模様となり、最後の直線では見ごたえある叩き合いが展開された。競馬ファンにとっては見逃せない白熱した一戦を、ここでじっくりと振り返っていこう。
レース概要と馬場状態
舞台となったのは中山芝1600メートル、外回りコース。天候は「晴」、馬場状態は「良」と、馬場は絶好条件に近いコンディションであった。発走時刻は15時45分。GⅢとしては珍しく、レースは6分遅れてのスタートとなったが、これはエコロブルームがゲート内で暴れたことによるもの。鼻部挫創を発症し、無念の除外となった。
ハンデ戦ということもあり、斤量差が結果に大きく影響を与えるレース。実際、1着トロヴァトーレは57.5キロを背負いながらも勝利しており、実力の高さを証明。一方、58.5キロと重ハンデを課されたシャンパンカラー、ロジリオンの奮闘も目立った。
全体的に時計は速く、勝ち時計は1分32秒4。これはGⅢとしてはかなり優秀なタイム。前半のペースが極端に速かったわけではないが、後半の脚比べで真の能力が問われる展開となった。
レース展開の詳細
スタート直後から積極的に飛び出したのはアサカラキングとメイショウチタン。これに続いてタシット、ノーブルロジャーが前を取りに行く形。中団には人気馬トロヴァトーレ、コントラポスト、ロジリオンらが位置取り、後方にはマテンロウオリオン、キープカルムといった差し・追い込みタイプが控える隊列となった。
ラップタイムは以下の通り:
12.5 – 11.2 – 11.2 – 11.5 – 11.5 – 11.5 – 11.4 – 11.6
ミドルペースながら、終いにかけてのラップが落ちない持久力勝負に変化。4コーナーでは各馬が横一線となり、ここからは完全なヨーイドンの勝負。内で我慢した馬、中団から差してきた馬の脚色が明暗を分けた。
特に目立ったのは直線での進路取り。トロヴァトーレとキープカルムが外に持ち出す中、コントラポストは馬群を割る形で接近。この位置取りの違いが最終的な着順にも反映されたと言える。
各馬のパフォーマンス評価
トロヴァトーレ(1着)
人気に応える完勝劇。モレイラ騎手の絶妙なタイミングの仕掛けと、馬の末脚が噛み合ったレース運びだった。道中は中団後方に待機し、直線ではスムーズに外へ持ち出すと、最後は長くいい脚を使い差し切った。上がり3Fは34.0。馬体重は+10キロと成長を感じさせるもので、調整も完璧だった。父レイデオロ譲りの瞬発力と、母系の持続力を兼ね備えた血統背景が、今後のマイル~中距離戦線での活躍を予感させる。
コントラポスト(2着)
ハンデ55キロを味方に、イン差しでクビ差の2着。好位から器用に立ち回り、最後まで粘り込んだ内容は評価に値する。前走内容からはやや地味な存在だったが、レースセンスの良さが活きた一戦。菊沢厩舎らしい堅実な仕上げと、田辺騎手の手腕が光った。
キープカルム(3着)
上がり最速33.9を記録したが、後方からの競馬となった分届かず。位置取りに難しさがある反面、終いの脚は確実。中竹厩舎が地道に育ててきた素質馬で、今後も展開次第では重賞で通用する力を見せた。馬体も490キロと理想的な範囲での減で、状態面にも不安はなかった。
マテンロウオリオン(4着)
着順以上に強い競馬。大外から豪快に追い込んできたが、直線でやや斜行が見られた点はマイナス材料。騎手に過怠金10万円が課されたのも仕方なし。とはいえ、前走からブリンカー着用が効果を示しており、次走以降も展開次第で一発が期待できる馬。人気薄で妙味が増すタイプ。
ゾンニッヒ(5着)
近走成績からは軽視されていたが、久々に掲示板に載る好走。7歳馬ながら衰えは感じられず、池江厩舎の調整力が光る内容。これまでの中距離戦線からマイルへの距離短縮が奏功した形で、今後もローテ次第では穴馬として要注意。
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惜敗馬たちの奮闘
一線級に僅差で敗れた馬たちも見逃せないパフォーマンスを見せた。中でもシャンパンカラー、タシット、ロジリオンの3頭は、展開次第で着順が逆転していてもおかしくない内容だった。
シャンパンカラー(6着)
58.5キロという酷量を背負っての一戦だったが、最後までしっかり脚を使っており、敗因は斤量と位置取りに尽きる。直線では外から伸びる場面もあったが、ややスペースを探すロスが響いた印象だ。馬体重は-2キロと調整もうまくいっており、状態は良かった。GⅠ戦線でも戦った実績を考えれば、次走で軽ハンデになれば狙い目となる。
タシット(7着)
この馬も前々からの粘り込みを見せたが、直線ではキレ負けする格好に。中山のマイルよりはもう少し時計のかかる馬場の方が合うかもしれない。横山和生騎手とのコンビも手慣れてきており、ポジションさえうまく取れれば今後も掲示板を賑わせる存在。
ロジリオン(9着)
2番人気に推された本馬だが、直線での進路取りに苦しみ、力を出し切れなかった印象。馬群の中で包まれる場面もあり、脚を余した形に見えた。能力的には今回のメンバーでも通用することは確かで、スムーズな競馬ができれば巻き返しは可能。
展開を左右したポイント
今回のレースを決定づけた要素は大きく3つ。
- スタート直後の位置取り争い
前に行きたい馬が複数おり、ペースが早まるかと思われたが、意外にも抑え気味に流れたことで、中団から差してきた馬が有利な展開となった。 - 3〜4コーナーの進路選択
外からスムーズに出せた馬が上位を占め、内で溜めていた馬は直線で詰まるリスクを負う形に。外枠の馬が意外と好走しており、枠順の有利不利が逆転した印象。 - 最後の坂での脚色の差
中山名物の急坂で、持続力のある馬が最後まで伸びた。一瞬のキレではなく「長くいい脚」が使える馬が上位にきており、純粋なスプリンターには厳しい展開だった。
注目された有力馬たちの評価
今回のレースでは人気上位馬の着順がややばらついた結果となった。
- トロヴァトーレ(1番人気) → 勝利。力通りの内容。
- ロジリオン(2番人気) → 9着。不利もあり度外視可能。
- コントラポスト(3番人気) → 2着。斤量がハマった好走。
- タシット(4番人気) → 7着。展開に泣いた内容。
- アサカラキング(5番人気) → 11着。前が厳しく苦しい競馬。
この結果から見ても、展開と斤量が大きく影響したレースであることが分かる。特にハンデ戦では「過小評価されている中穴馬」が台頭する余地が常にあるという好例であった。
騎手の騎乗ぶりについて
モレイラ騎手の好騎乗が光ったレースだった。序盤から無理せず中団待機、直線でスムーズに外へ誘導し、馬のリズムを壊さずに差し切った内容はさすがの一言。
また、田辺騎手もイン差しでクビ差の2着に導いた騎乗は見事。勝負所で無理に外を回さず、最短距離で進路を取った判断力が冴えていた。
逆に課題を残したのは横山典弘騎手。マテンロウオリオンの豪快な追い込みは見応えがあったが、斜行による不利は不要だった。直線で他馬に影響を与えるような進路取りは避けるべきであり、ここは騎手の反省点と言えるだろう。
ペース分析と上がり3Fの影響
今回のペースはミドル~やや速めといった絶妙な流れだった。序盤が速すぎず、隊列が整ったため、極端な前崩れにはならなかったが、上がり勝負になったことで、末脚自慢の馬が台頭。
特に注目すべきは上がり3F33秒台を記録した馬たち:
- キープカルム(33.9)
- マテンロウオリオン(33.7)
- シャンパンカラー(33.9)
この3頭は着順以上に能力を示しており、展開がハマれば次走以降も期待できる。
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馬場状態とレースへの影響
今回の中山芝コースは「良馬場」で行われたが、3回中山開催の3日目ということもあり、内の芝はやや荒れてきていた印象だ。その影響もあり、内を通った馬よりも外目をスムーズに走れた馬が上位を占めている。時計自体は1分32秒台前半と高速決着だが、これは単純に馬場の軽さだけではなく、全体のスムーズな流れと展開に恵まれた結果だろう。
特に、直線の伸びに関しては外から差す形の方が有利。コントラポストやトロヴァトーレのように中団から外に持ち出して末脚を活かせた馬が好走しており、今後の中山開催においても「外差し」の意識は重要になるかもしれない。
除外馬エコロブルームの影響とアクシデント
本レースでは発走直前にエコロブルームがゲート内で暴れて除外となった。突進して鼻部を負傷し、競走除外処分。これにより発走時刻は6分遅延し、他馬にも若干の影響があった可能性がある。ゲート内のアクシデントは馬の精神状態にも関わるものであり、近くにいたアサカラキングやメイショウチタンなど前目にいた馬には若干不利に働いた可能性も。
また、騎手の横山武史は発馬機内での過怠金1万円が課されており、今後のゲート調整が必要とされる。このようなアクシデントがあると、レース全体の流れもわずかに変化するため、結果に微妙な影響を与えていた可能性は否定できない。
ハンデ戦らしさが出た着順構成
今回のダービー卿チャレンジトロフィーはハンデキャップ戦。斤量差を活かして好走した馬、斤量に泣いた馬、それぞれの個性が色濃く出た。
ハンデが味方した馬
- コントラポスト(55.0kg):軽ハンデを最大限に活かし、直線で鋭く伸びた。
- キープカルム(56.0kg):ハンデと展開のバランスがマッチし、3着確保。
- マテンロウオリオン(56.0kg):後方からの一気の追い込み。斤量のおかげで最後まで脚を使えた。
ハンデに泣いた馬
- シャンパンカラー(58.5kg):背負わされた斤量が直線の伸びに響いた印象。
- ロジリオン(58.5kg):流れとポジションに恵まれなかったが、斤量の影響も大きい。
- アサカラキング(58.0kg):先行したが、斤量に耐えきれず最後は脚が止まった。
ハンデ戦ならではの「斤量差=着順差」を象徴する内容で、馬券的にも波乱含みの見応えある一戦だった。
レース全体を通しての評価と位置づけ
今年のダービー卿チャレンジトロフィーは、近年まれに見るハイレベルな一戦だった。勝ち時計1:32.4は例年と比較しても非常に優秀で、出走馬の能力の高さ、そして騎手の技術、展開の巧みさが噛み合った印象。
また、今後GⅠ戦線へ向かう馬にとっても、ここを叩き台にするには十分な価値のある内容だった。過去にはこのレースから安田記念、マイラーズカップへとステップアップした馬も多く、今年もそれに続く馬が出てくる可能性は高い。
特にトロヴァトーレは今後のマイルGⅠ戦線において注目株であり、ローテーションが噛み合えば春・秋の両GⅠでの活躍も期待される。
今後の展望と注目ローテーション
このレースを経て、次のステップとして考えられるのは以下のローテーション:
- トロヴァトーレ・ロジリオン → 安田記念(東京1600m)
- コントラポスト・キープカルム → 京王杯SC(東京1400m)
- マテンロウオリオン・シャンパンカラー → 関屋記念(新潟1600m)or 米子S(阪神1600m)
特に東京コースは中山と性質が異なるため、馬場適性の見極めが重要になる。直線の長い東京では「末脚の爆発力」が求められるだけに、今回33秒台の上がりを使えた馬たちには注目しておきたい。
次走の狙い馬:マテンロウオリオン
注目度:★★☆☆☆(過小評価される可能性高)
中山のマイルで後方13番手から鋭く伸びての4着。上がり33.7秒はメンバー中最速で、しかも外々を回るロスの多い競馬をしてこの内容は秀逸。さらに今回は久々のブリンカー着用という変化もあったが、それが良い方向に作用した印象だ。
注目すべきは「斜行により不利を与えながらも伸びてきた」点。つまり、最後まで気持ちが切れていなかった証拠であり、精神面でも好調さがうかがえる。
人気先行型ではないこの馬が、次走、関屋記念あたりで好枠を引いて同じような脚を使えれば、十分3着以内に食い込む可能性がある。しかも人気が出にくいタイプだけに、馬券的な妙味も抜群だ。
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